魅惑のインドネシア②

2017年5月4日20:17

 

 今回の視察で一番興味があったのは,「宗教」裁判所でした。

地方裁判所と宗教裁判所はどんな関係があるのか?法廷はどんな造り?非公開?

建物はモスクみたいな造り?とか勝手な想像をしていました。

 

 まず,前提として,インドネシアでは最高裁判所を司法権の最高機関として,4系統の高等裁判所と地方裁判所があります。それぞれ,事件の種類によって管轄が異なり,①通常裁判所②行政裁判所③宗教裁判所④軍事裁判所に振り分けられることになります。

 ③宗教裁判所は,当事者がイスラム教徒であり,イスラム法・教義により裁判する婚姻等関係の民事事件を管轄しています。

 

 私たちが訪問したのは,ジャカルタ市のお隣りのデポック市の宗教地方裁判所でした。

行ってみると建物は,日本にある普通の地方裁判所のような造りで,法廷の作りも似ている。裁判官が法廷に行くまでの通路も案内してもらいましたが(そういえば日本でも通ったことないな),アジアの裁判所を巡ってみてそれらの裁判所の造りと比べて特別なところは感じませんでした。待合いが野外だったり入り口に電光掲示板があったりするなど細かいところはありますけど。

 

 実際,扱う法源がイスラム法ということの他は,地方裁判所などとも大きく違うことはないようでした。当初考えていたような閉鎖的な雰囲気もなく,むしろ大歓迎され職員総出でセレモニーのようなことをしていただきました(これはむしろ恐縮でした)。

 

 扱う事件は,離婚・相続事件が圧倒的に多いとのこと,全件調停前置主義(注1参照)ということもあり一般市民が出入りしており,日本の家庭裁判所の雰囲気でした。ちなみに,イスラム法では妻を4人まで持てる一夫多妻が認められていますが,2人目以降の妻と結婚をするためには裁判所の許可なければできませんので,婚姻事件もあります。

 離婚相続のほか,独特のイスラム金融(有名なところでは,利子をとってお金を貸すことができない)に基づいて経済事件が判断されることもあるようです。

 

 なるほど当初想像していた裁判所とは大分異なっていたわけですが,思えば,そもそもちょっとインドネシア(あるいはイスラム教??)に対する偏見があったことに気がつきました。

インドネシアに来てからイスラム教にそんなに厳しいという雰囲気がないということにも気がつきました。例えば,イスラムではアルコールは禁止されていますが,地元のビール(ビンタンやバリサイ)もありますし(オランダ統治時代の影響でオランダ製法のようです),スカーフ(ヒジャブ)を着けていない女性も多くいます。個人の差はあるようですが,それほどイスラム教の教義に厳格ではないということを聞きました。

 

 やっぱり現地にいってみると,想像とは全然違うんだなぁということを感じさせます。

 なお,ジャカルタにはアジア最大のモスク,イスティクラルモスク(下はモスク内部の写真)があるのですが,その正面には,立派なジャカルタ大聖堂(カトリック)が建っています。

 

 いい眺め。

 

つづく

 

注1)「全件調停前置主義」…インドネシアでは家事事件に限らず全ての事件が訴訟に入るまえに調停(話し合い)を行うようです。日本の場合は離婚事件など一部のみ。

 この制度の確立には日本の裁判官(草野芳郎元裁判官)が大きく寄与しており,インドネシアの法曹では知らない人はいない?人物となっているようです。「Wakai」(和解)という言葉はインドネシアの法律家に通じます。

 

 

弁護士 金 井   健