フィリピン視察紀行(3)日本・フィリピン間の家族問題
金井健 2012年6月 4日 19:22
私たちは、フィリピン視察3日目に、MaligayaHouseに訪問しました。MaligayaHouseというのは、「特定非営利法人JFCネットワーク」のフィリピン現地事務所のことです。
そして、JFCネットワークとは、1980年代から増加してきた日本へ働きにきたフィリピン人女性と日本人男性の間に生まれた子ども達のうちで、日本人の父親の育児放棄などにより、精神的・経済的に苦しい生活を余儀なくされることになった子どもたちやその母親の人権を守る活動をする目的で設立した市民団体のことです。
MaligayaHouseでは、直接に母子からの相談を受け、母子への精神的・法律的なカウンセリングや奨学金支援、母子のために日本語教室も開いています。
私たちが訪問すると、日本人スタッフとして働いている河野尚子さんをはじめ、よくMaligayaHouseに通っているという子どもや母親が温かく出迎えてくれました。
そして、自己紹介やマニラ麻を使ってのタワー作りゲームなどを通じて子ども達と交流を図ることができました。また、フィリピンのお袋の味ともいわれるシニガンスープもご馳走になりました。写真でもわかるように、子ども達は屈託のない笑顔で私たちと接してくれました。おかげで私たちは素晴らしい時間を過ごすことができました。温かく出迎えていただいたお礼として、委員会からは、日本製のノートパソコンやオルゴールなどが寄贈されました。
また、その日の午後は、河野さんらとともに実際にMaligayaHouseに相談に来ている2件の母子の家庭訪問を行いました。1件目は、日本の父親に養育費の請求を相談しているケースの家庭であり、2件目は外国人の権利問題対策委員会委員長である高橋勝男弁護士がかつて認知訴訟を扱ったケースの家庭でした。
前者のケースように、フィリピンに帰ってきたお母さんは父親の養育費に期待するケースが多いといいます。日本の基準で算出される養育費は、フィリピンではかなり高額な収入となるからです。しかし、逆に、そのことが、母子の自立の意欲を奪っていることもあるともいいます。後者のケースの子どもは、既に成人していました。高橋委員長が、将来どうしたいか聞くと、日本に行きたい、さらには父親に会いたいとも語ってくれました。当人は日本人の父親に会ったことはないのですが、血のつながりというのは不思議なものだと感じました。
このように、日本とフィリピンの間での法律的な問題の大きいところではこの母子の問題があります。日本の法律相談で、突然、寝たきりの父親宛にフィリピンから養育費を求める請求が来たという相談をその家族から受けたこともあります。
考えさせられる問題ですね。
さてさて話は変わりますが、最近は、離婚騒動がワイドショーを賑わせることも多くなりました。近年日本では、離婚する夫婦の比率は高まっており、離婚すると聞いてもあまり驚かなくなったと思います。
しかし、フィリピンの法律では離婚は禁止されています。一切離婚ができません。では、日本に来ているフィリピン人と日本人のカップルはというとこれは日本で離婚するのであれば、離婚できます。
ただし、日本で行った離婚がフィリピンで効力を有するかというと、限られた場合に限定されるので注意が必要です。
フィリピンでは離婚ができないとはいいましたが、これはカトリックの影響を受けていることに由来しています。とはいえ、一度結婚した夫婦がどんな理由でも(例えば、夫が失踪してしまったとか、ひどいDVだとか)別れられないというのは不都合に感じますよね?
実際、フィリピンでも婚姻無効という制度はあります。また、法定別居という制度も整っています。フィリピンの婚姻無効事由は、日本でいうところの離婚原因と同じような意味をもっているので、フィリピン人は婚姻を無効とすることで前述のような不都合を回避します。
ただし、婚姻無効は訴訟により決さなければならないため、金銭的に余裕のない人は婚姻無効の裁判を受けることはできません。
国が違えば、法律もいろいろですよね。
次回(4)は、最終回で、フィリピンとのネットワークを考えます。
弁護士 金 井 健