フィリピン視察紀行(1)フィリピンの経済・法律事情の現在
金井健 2011年4月26日 11:43
私は、今年の3月31日~4月5日までの間、群馬弁護士会外国人の人権問題委員会主催のフィリピン視察に参加させてもらいました。私自身、フィリピン国籍の依頼者がいた関係もあり、かねてから現地に行きたいと思っていたため、今回悲願のフィリピン視察となりました。
1日目・2日目は、スモーキー・マウンテンやリサール公園などメトロ・マニラ市内を見て回り、フィリピンの実情を学びました。3日目は、マリガヤハウス(第3回で詳しく紹介します)や実際にマリガヤハウスに相談に来られている方の家庭訪問を行いました。4日目は、フィリピン大学ロースクール及びIBP(いわゆるフィリピンの弁護士会)訪問、5日目は、フィリピン最高裁判所訪問及び現地弁護士との交流、ととても濃密な期間を過ごすことができました。
今回の視察で多くのことを学ぶことができたので、このブログで合計4回、4週にわたって紀行文を掲載させていただきます。
1回目の今回は、短い間ですが、滞在期間の中で見えた「フィリピンの経済・法律事情の現在」を報告します。
フィリピンに訪れている間、私たちはメトロ・マニラのマラテ地区に滞在していました。私たちがホテルの外を出て歩いていると、子ども達が群がって来て、何か欲しい欲しいと言って手を出してきます。また、観光客を狙って話しかけてくる人たちがたくさんいます。私たちが滞在していた地区には、貧しい市民が多く住んでおり、治安は決してよくない場所でした。
このように、確かに、メトロ・マニラ内には多くの貧困な市民がいるようです。しかし、他方で、メトロ・マニラには、いくつかの大規模ショッピングモールがあり、アジアモール(写真下)といわれるモール内には、日本でお馴染み「無印良品」や「ユニクロ」の出店がみられます(スケート場まであります!)。そして、モール内の物価は、日本での物価と大きくかわらない印象でした。また、メトロ・マニラのマカティというところには、富裕層が多く生活しており、治安もかなりいいようです。
しかし、貧富の差はとても大きく、やはり貧しい人々はとても貧しい。その象徴が、スモーキー・マウンテンでした。スモーキー・マウンテンというのは、ゴミ捨て山となっていた山が長い年月を経て木や草が生え、本当の山になってしまったところです。写真上が、その様子です。この山がゴミで出来ているなんて想像がつかないでしょう!!(近くにいくときつーい臭いがします)今はここではゴミを捨てられていないのですが、つい最近まで、ゴミが捨てられ、常に煙が立っていたようです。これが、山の名前の由来です。山の周りには、貧困街が広がり、ゴミの中から売れそうなものを探す人々が現在でも多く生活しています。
さてさて、ここまでは、フィリピンの経済事情です。法律事情はどうかというと、貧しい市民には弁護士を雇う金銭的な余裕などありませんから、法曹需要も人口の多さから比べれば多くはなかったようです(ちなみに、フィリピンの人口は公式では8800万人とされていますが実際は1億を超えるとも言われています)。しかし、経済の発展に伴い、人々の権利意識も高まり、現在は、法律紛争が多くなっているようです。
訴訟の件数が増加するに伴い、司法制度の迅速性が改革の急務となっています。そこで、フィリピンではバランガイ制度といわれるフィリピン固有の紛争解決制度を設けました(第2回で説明します)。
フィリピンは、スペインの統治を受け、その後、日本の占領を経て、アメリカによる統治も経験しています。中でも、スペインの統治期間が長く、このことがカトリック文化を通じて法律にも影響を与えています。例えば、フィリピンでは離婚は認められていません(第3回で説明します)。
フィリピンの法律について、日本語で書かれた書籍は実は極めて少ないのが現状です。他方で、近年、フィリピンには、多くの日本企業が進出しています。市内にはソニーの看板が目立ち、主要道ではトヨタの車が多く走っています。また、街にはセブンイレブンが至る所にあります。
ホテル近くの観光客向けのフィリピンバーには、「AKB48」と掲げられた看板もありました。フィリピンでも知的財産訴訟が増加しているようです。
このように、今後は、フィリピン法務の専門家の需要は大きくなるのではないでしょうか。
次回は、フィリピンの司法制度を報告したいと思います。
弁護士 金 井 健