介護事故と超高齢社会における「逝き方」

2011年12月10日14:21 小此木清

1.  わたしの2012年の新しい取り組み3つのうちの1つが,「介護事故」問題である。

 

   例えば,介護事故により,介護者が目を離した隙に,高齢者が転倒により大腿骨を骨折し,寝たきりとなり,誤嚥し,肺炎の結果死に至る。

 

  日本人の年齢層別の死因の構成割合からは,高齢者では,肺炎による死亡割合が非常に大きい。家族で介護していても,高齢者への介護事故により,転倒や誤嚥がおき,肺炎により死亡に至る経過をたどる場合が不可避的に起こりうるからである。そこで,施設であれ,家族の介護であれ,「介護事故」から高齢社会における日本人の「逝き方」を俯瞰することができる。 

 

 現時点では,構想段階であり,今後の研究過程で変化・熟成していくであろうが,今の発想を記載しておきたい。 

 

2. 「介護事故」が不可避的に起こりうると記載したのは,例えば施設の介護者も高齢者3人に1人の割合で配置された場合,一人の見守りをすれば,他の二人から目を離すことになり得る。もちろん,そこに不注意(過失)が認定されなければ,損害賠償保険金の支払いも発生することがない。

 

  つまり,介護事故の判例上,損害賠償責任が生ずる場合と,損害賠償保険金が支払われることで,介護者の不注意(過失)が認められる場合とが混在している。それゆえ,施設は,高度な注意義務違反がある介護事故から,いわゆる不注意事案まで含めた場面での安全管理が求められるが,その水準は,一般人の注意義務(善管注意義務)をもって介護すべきと考えるのである。

 

  なぜなら,介護保険施行後の措置から契約へと移行した際,家族の介護の手を離れて,社会による介護となったに過ぎず,その介護の程度は同等と考えるべきだからである。施設介護者の介護は,本来家族の介護を前提とすべきであり,高齢者もまた,それを望んでいる。 

 

 ただし,施設との契約時,施設介護者は高齢者本人及び家族に対し,介護に対する安全管理を十分説明し,同人らの理解を得ることが必要となる(説明責任)。そして,介護事故が発生した場合には,ただちに,施設介護者から高齢者本人及び家族に対し,介護事故原因の報告・迅速な連絡・事故対応の相談がなされなければならない。 

 

3.  その上で,施設側のリスクマネージメント(安全管理)を検討していくことになる。それは,医療過誤における医師や看護師の専門家責任というものではなく,高齢者の家族から漠然と専門的介護があるであろうとされる領域の中で認められた注意義務だからである。介護の専門性が求められている状況では,異論もあろうが,あえて,介護というものに,高齢者の自己決定権・自律の尊重やノーマライゼーションの価値を優先させたいからである。

 

  例えば,転倒を防ぐには,高齢者をベットや車いすに拘束することが容易な安全性確保のための手段である。しかし,高齢者の自己決定権・自律の尊重するには,彼がベットで自由に行動できることを優先し,安全性は別の手段を選択することで確保しなければならない。介護を行う者は,その価値の位置づけを間違えてはならない。

 

  それゆえ,介護は,安全性のみを強調することができず,高齢者の自律との調和のもとに存在し,介護の専門性もその枠の中で意味づけられることになる。 

 

4.  したがって,日本社会の基盤であった家族社会から契約社会へと変貌する過程において,介護事故を検証していくことは,超高齢化社会における「死に方」にかかわる問題だといっても過言ではない。